第45回 全国心臓病の子どもを守る会 全国総会 |
心臓外科医を目指して早や30年になろうとしています。
岡山大学で寺本滋教授に教えを受けて以降、広島市民病院では故塩手章弘先生に、
兵庫県立尼崎病院では故横田祥夫先生に、さらにニュージーランド(オークランド大学附属グリーンレーン病院)
では、故バレットボイス卿(Sir Brian Barrett-Boyes)に、オーストラリア(メルボルン大学附属王立小児病院)
ではMee先生にと、今まですばらしい先生方に出会うことが出来、心臓外科医としての技術だけでなく、
医師としての心構え、生き方など多くのことを学びました。特に海外ではプロフェッショナルな心臓外科医としての
心構え、厳しさ、つらさ、楽しさなどを叩き込まれました。
心臓外科医としての基本的なトレーニングが終わり、自分自身で本格的に執刀し始めてもう20年近くになります。
その間6000例以上の心臓手術を行いました。心臓手術のなかでも私が専門としている先天性心疾患は4000例以上
になります。4000人以上の患者さんの手術をさせていただきましたが、
思い出す多くは手術で亡くなった子どもたちばかりです。その多くは自分の腕の未熟さで不幸にも亡くなられました。
今の自分の腕であれば半数以上の子どもたちは助かっていたはずです。どうしてもっと上手くできなかったのだろう、
どうしてもっと早く気が付かなかったのだろう、どうしてもっと早く出来なかったんだろう・・・・。
この想いは心臓外科医としてメスを握り続ける限り抱き続けるでしょう。
私が帰国し、岡山大学の教授に就任した1990年初頭に比べると、現在の心臓外科、
特に新生児・乳児期早期の複雑心奇形の成績は飛躍的に向上しました。
日本でも新生児開心術の手術死亡は30%以上であったものが、今や14−5%にまで下がってきています。
以前は手術で生きるか死ぬかが議論の中心であった心臓手術の多くは、手術後どの位良く治せるか、
どの位の生活レベルが可能かという手術の質やQOLの議論になってきています。
たとえば我々の手術したファロー四徴症の子どもたちの半数以上は普通の子どもたちと同じ生活、運動が可能です。
学校で運動クラブに入ってがんばっている子どもたちもたくさんいます。
以前では考えられない位QOLは向上したと思われるかもしれません。しかし逆に考えてみると、
半数近い子どもたちは運動クラブに入って、皆と一緒に運動が出来ないのです。
この子達は将来再手術が必要になったり、不整脈で悩まされたり、あるいは不幸にも突然死するかもしれません。
ファロー四徴症よりももっと複雑な心奇形を持った子どもたちが、ほとんど助かるようになってきた現在では、
もっと多くの子どもたちは、将来いろいろな合併症に遭遇し、悩まされるかもしれません。
そう考えるとこの子どもたちの10年後、20年後、さらにはもっと先を見据えたより良い治療、医療が必要です。
1人でも多くの子どもたちが救命され、普通の子どもたちと同じ生活が送れるような治療・手術を目指し、
不幸にもそのようにならなかった子どもたちをどのように育てるか、
学校生活や医療保障をも含めて我々は常に考え続けなければならないでしょう。